大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)1343号 判決 1968年9月04日
主文
被告は、原告に対し金二、六一四、〇〇〇円及びこれに対する昭和四二年一二月四日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、被告の負担とする。
この判決は、原告において金八〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
一、訴外有限会社産機設計工業所(以下単に訴外会社という)は、機械類の製造販売を業とする会社であるが、昭和四二年六月三〇日被告に対しトラツクチヤンフアー二号機一台及び同三号機一台を代金三七三万円で売渡した。被告は、右訴外会社に対し右代金の一部を既に支払い、残金二、六一四、〇〇〇円の支払方法として別紙目録(1)記載の約束手形一通を振出した。原告は、右訴外会社の業務担当従業員として昭和四二年七月四日右手形を被告から受領した。
二、原告は、同日大阪市内において右手形を紛失し、責任上同年八月五日手形金額である金二、六一四、〇〇〇円を右訴外会社に弁償した。そして右弁償の代償として原告は同年九月一四日右訴外会社から被告に対する前記売掛金債権の譲渡をうけ、右訴外会社は、同日被告に対し内容証明郵便で債権譲渡の通知をなし右手形につき、昭和四三年六月三日大阪簡易裁判所で除権判決をえた。
よつて、右譲受債権金二、六一四、〇〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和四二年一二月四日以降完済に至るまで商事法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。と述べ、
被告の抗弁事実(一)、(二)はこれを争う。(三)のうち被告がその主張の反対債権を有すること、訴外会社が昭和四三年一月一三日整理により期限の利益を喪失したこと及び被告が相殺の意思表示をなしたことは争わない。右相殺は債権譲渡通知後に弁済期が到来した反対債権をもつてなされたものであるから原告に対抗することはできない。と述べた、
立証(省略)
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、請求原因事実第一項の事実は認める。第二項のうち訴外会社名義の内容証明郵便による債権譲渡通知があつたことは認める。その余の事実は不知である。と述べ、
抗弁として、(一)、代金債務は手形債務に更改されたから代金債権は消滅している。即ち、代金は手形で支払う約であり別紙目録(1)の手形を訴外会社に交付済である。
(二)、更改でないとしても手形債権が優先的に行使さるべきであるから、代金債権譲渡は右約束手形とともにすべきであり、公示催告完了までは代金債権は請求できないと解すべきである。
(三)、そうでないとしても、被告は訴外会社に対し別紙目録(2)ないし(18)記載の約束手形一七通(合計金一七〇万円)の反対債権を有し、訴外会社は昭和四三年一月一三日倒産による整理のため一七通の手形につき期限の利益を失つた。被告は、昭和四三年七月二四日第二回口頭弁論期日において右反対債権による相殺の意思表示をした。よつて対当額につき消滅した。と述べた、
立証(省略)
理由
訴外有限会社産機設計工業所(以下単に訴外会社という)が機械類の製造販売を業とする会社であり、昭和四二年六月三〇日被告に対しトラツクチヤンフアー二号機一台と三号機一台を代金三七三万円で売渡したこと、被告が右訴外会社に対し右代金の一部を既に支払い、残金二、六一四、〇〇〇円の支払方法として別紙目録(1)記載の約束手形一通を振出交付したことは当事者間に争がない。右事実及び弁論の全趣旨によれば、右売掛残金の弁済期日は手形の満期日である昭和四二年一二月三日であるといわねばならない。
そして、成立に争のない甲第一号証ないし第四号証によれば、被告から右約束手形の振出交付をうけた訴外会社の従業員である原告は、該手形を昭和四二年七月四日大阪市内で紛失したこと、その為原告は同年八月五日訴外会社に対し右手形金額を弁償したこと、その代償として原告は同年九月一四日訴外会社から前記売掛残代金二、六一四、〇〇〇円の債権譲渡をうけたこと、訴外会社は同日被告に対し右債権譲渡通知をなしたこと(この点争なし)及び訴外会社は昭和四二年八月大阪簡易裁判所に対し公示催告の申立をなしその結果昭和四三年六月三日除権判決がなされたことを認めることができる。他に右認定を左右すべき証拠はない。
次に被告の抗弁について検討する。
(一)別紙目録(1)の約束手形が代金債務の支払方法として振出されたこと前記のとおりであるからこれを更改であると解することはできない。従つて更改であることを前提とする主張は採用できない。
(二)代金債権を譲渡する場合、これが支払のために振出された手形とともにしなければならないものではない。蓋し債務者のためには特段の事情のない限り手形と引換えに支払うべき旨の同時履行の抗弁を認めれば足るからである。
そして、訴外会社が公示催告手続の結果昭和四三年六月三日右手形につき除権判決をえていること前記のとおりであるから被告の右主張は採用できない。
(三)相殺の抗弁についてみるに、被告が訴外会社に対し別紙目録(2)ないし(18)記載の反対債権を有すること、右反対債権の弁済期が昭和四三年一月一三日到来したこと、及び被告が同年七月二四日相殺の意思表示をしたことは当事者間に争がない。
ところで、債務者(被告)の反対債権が弁済期に来ていないために相殺敵状になく、従つて相殺ができないでいる間に、債権譲渡通知がなされた場合、その后における債務者のなす相殺については争の存するところであるが、双方の利益を考慮して決すべく、甲(原告)が乙(訴外会社)の丙(被告)に対する債権を譲受けた場合において、丙が債権譲渡通知前に取得した乙に対する反対債権の弁済期が右通知時より後であるが、譲渡債権の弁済期より前に到来する関係にあるときは、丙は債権譲渡通知后の相殺をもつて甲に対抗することができるが、右両債権の弁済期の前后が逆であるときは、丙を右相殺をもつて甲に対抗することができないものと解するを相当とする(昭和三九年一二月二三日大法廷判決参照)
これを本件についてみるに、訴外会社が昭和四二年九月一四日被告に対する売掛金債権を原告に譲渡し、同日右債権譲渡通知がなされたこと及び該債権の弁済期が同年一二月三日であること既に認定したところである。そして被告の訴外会社に対する前記反対債権の弁済期日(昭和四三年一月一三日)が右売掛金債権の弁済期日(昭和四二年一二月三日)に遅れること明らかであるから被告は右相殺をもつて原告に対抗することはできないものといわねばならない。従つて右相殺の主張は採用できない。
してみると、被告は原告に対し前記譲受にかかる売掛残金二、六一四、〇〇〇円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和四二年一二月四日以降完済に至るまで商事法所定年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務あるものといわねばならない。
よつて、原告の本訴請求を認容すべきものとし、民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
別紙
約束手形目録
金額(円) 満期(昭和年月日) 支払地 支払場所 振出地 振出日(昭和年月日) 振出人 受取人 (1) 二、六一四、〇〇〇 四二、一二、三 大阪市 株式会社神戸銀行大阪支店 大阪市 四二、七、三 被告 訴外会社 (2) 一〇〇、〇〇〇 四三、一、五 名古屋市 瀬戸信用金庫恵方支店 名古屋市 四二、三、三〇 訴外会社 被告 (3) 〃 四三、二、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (4) 〃 四三、三、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (5) 〃 四三、四、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (6) 〃 四三、五、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃
(7) 一〇〇、〇〇〇 四三、六、五 名古屋市 瀬戸信用金庫恵方支店 名古屋市 四二、三、三〇 訴外会社 被告 (8) 〃 四三、七、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (9) 〃 四三、八、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (10) 〃 四三、九、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (11) 〃 四三、一〇、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (12) 〃 四三、一一、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (13) 〃 四三、一二、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (14) 〃 四四、一、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (15) 〃 四四、二、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (16) 〃 四四、三、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (17) 〃 四四、四、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃 (18) 〃 四四、五、五 〃 〃 〃 〃 〃 〃